ある人文学部生の覚え書き

 本稿は,題名が示すように,(能に関心がある)人文学部生の覚え書きであり,アドバイスめいたものではない。それゆえ,内容は雑多で,特に明確なテーマを持つものではない。ただ公開する以上,誰かに何か資するものがあったら良いなという願望は持っている。(※「」で引いている言葉は,当時の講義ノートやら質問に行った際のメモやらを使用し,可能な限りで再構成したものである。)

1-2. 学部1年生の時

3-5. 中世日本文学けんきうに関するもの

6-7. けんきう計画書に関するもの

8-9. 学生生活(風呂掃除・ボールペン)に関するもの 

  1. 筆者が学部1年生の頃,ある教員に対して論文などの取り扱い方を何気なく聞いた。その時の回答が以下のようなものだった。「1年生が学術雑誌をどう扱えばよいかという御質問ですが,まずはどういう雑誌があるかを図書館地下の書庫で眺めることでよいと思います。取り組みたい問題がはっきりして来たら,個別の論文を探すことになります。それまでは前回お勧めしたように専門書の手触りだけでもたくさん経験しておいてください。どこの棚にどんな本があるかを身体で覚えることが大事です。それではがんばってください。」

  2. またその時に学術雑誌についても伺った。回答は以下のようなものだった。「学術雑誌には2通りあります。1つは『文学』などの商業誌です。『国文学』『国文学解釈と鑑賞』などがよく知られています。しかし現在は大方休刊・廃刊しています。『観世』『宝生』なども商業誌ですが何とか続いています。商業誌の場合は特集が組まれることが多いので特集号を探せばよいと思います。もう1つは学会誌や大学等の紀要です。これは特集ではなく単独論文を集めたものです。商業誌の場合は編集部からの依頼で論文が執筆されます。」

  3. 筆者が学部3年生の時,謡曲(能の詞章)の典拠に関心を持った。その際に当然謡曲集を見るものの,『謡曲集』と題されるものは複数刊行されており,どれを手に取ればよいのか迷った。そこで,まず伊藤正義注の『新潮日本古典集成 謡曲集』が薦められた(伊藤正義は謡曲の典拠けんきうの水準を大幅に上げた。最近著作集が刊行されている)。そして,戦前の仕事だが、当時としてはかなり詳細な注釈が施されている佐成謙太郎の謡曲大観』も紹介された。また『日本古典文学大系 謡曲集』『新編日本古典文学全集 謡曲集』も役に立った。

  4. 謡曲を含めた能をけんきうする際には,ある教員から以下の書籍を薦められた。小林健二『中世劇文学の研究―能と幸若舞曲』。香西精『能謡新考―世阿弥に照らす』『世子参究』『続世阿弥新考』。中村格『室町能楽論考』。堀口康生『猿楽能の研究』。また,1980年代以降,中世文学で聖教(しょうぎょう)と呼ばれる,寺院などにある仏教関係の書物に関する研究が盛んになった。その成果を,能に遺憾なく発揮させた例として落合博志氏と阿部泰郎氏が挙げられた。阿部泰郎『聖者の推参』『湯屋の皇后』などは必ずしも能が主題ではないが,「”えもいわれぬ”中世像を理解するには良いのではないか」とのコメントももらった。

  5. 学部3年の時,ちょうど県立美術館だか歴史博物館だかで源氏物語絵巻に関する特別展示があった。お金を払って観に行くので,事前に下調べをしておきたかった。そこで,以下の書籍を手に取った(紹介されたものも含む)。秋山光和『日本の美術 源氏絵』。佐野みどり『日本の美術 源氏物語』。以上の2冊は,今はなき至文堂が出版していたシリーズ本。三谷邦明三田村雅子源氏物語絵巻の謎を読み解く』。これは,絵画の見方と絵巻作成の意図について簡潔にまとまっていた。ただし話の内容は検討すべき部分もあり,注意して読む必要がある。『新修日本絵巻物全集 源氏物語絵巻』(絵巻物の全集は『日本絵巻物全集』『新修日本絵巻物全集』『日本絵巻大成』(正続,『日本の絵巻』は本書の簡易版)がある)。これを紹介してくださった方曰く「絵を理解する上で一番有用なのは,写すことだと思いますが,描いてあることをできるだけことばで表現できるようにすることも大事だと思います。その点でたいへん参考になるはずです。」また,以上の書籍とは視点が異なるもので,源氏物語の彩色をデジタル復元した過程を描く『よみがえる源氏物語絵巻―全巻復元に挑む』。比較的安価で,源氏物語絵巻だけでなく,様々な作品が豊富な図版で挙げられている『豪華「源氏絵」の世界源氏物語』。最後に,上記と全く毛色は異なる,後世の人々が源氏にかかわる美術を利用してきたかについて詳述されているもので,高岸輝『室町王権と絵画―初期土佐派研究』。

  6. 大学院試験を受験する際に,けんきう計画書を提出する必要があった。しかし,筆者も,そして周囲にそれを書いた経験を持つ者もおらず,学生募集要項に記載された「志望する専門分野について研究あるいは学習したこと,あるいは今後研究を行いたいこと」を独自解釈して,その後,教員に草稿の添削をお願いした。余程ひどいものだったのか,普段そこまで積極的に指導を行わなず学生の自主性を重んじるその教員が,かなり言葉を選んで指導を行ってくださった。以下,しばしば「前提となる話をはぶいて唐突に詳細な本題に突入する習癖がある」筆者が,そのあらましを示していく。(このようなけんきう作法について書いたものは星の数ほどあり,屋上屋を架すような真似になるが……。)
     前提条件として,けんきう計画書などこの類の書類を書く際には,自分の思い入れを一方的にまくしたてるのではなく,どうしたら読み手に自分の考えが正確に理解してもらえるのかを考えながら文章をまとめる必要がある。読み手は基本的に,書き手の専門的な学問に対して素人であるという前提で臨むべき。
     [けんきうテーマの提示]自分のけんきうでは,〇〇世紀の〇〇についてけんきうしている。
     [テーマ選択の理由・そのけんきうの意義]なぜ,そうしたテーマを選んだかといえば,〇〇という理由があるからである(自分が選んだけんきうテーマがいかに重要な意義を含んでいるかをここで説明する)
     [けんきう方法の提示・その際に,なぜそうした方法を選んだのか,その方法が主題にアプローチするのにいかに適正かを説明する]その課題を解明するためには,具体的に〇〇という手法を用いて(あるいは,〇〇という人物の行動を分析することを通じて)考察をおこなっている。また(結論がまだ不明瞭ならば)どのような結論に至るか見通しを提示しておく。
     [残された課題とは?次に何をすべきか?]このけんきうを取り組むことで,さらに次のステップとして〇〇についてけんきうする必要が痛感されたため,以後,〇〇に関してけんきうを進めていきたい(大学院でのけんきうテーマがいかにして設定されたのかを説明する)

  7. けんきう計画書の骨組みに対して「6」で概観したが,実際どのようなポイントが見られているのか,「6」と重なる部分があるが示しておく。
     [もし〇〇という特定の人物に焦点をあてた場合]なぜ〇〇という人物を取り上げるのか。同時代の別の人物ではなぜいけないのか。そのけんきうが〇〇世紀の××研究にどう貢献するのか?(より広い文脈にどのように位置づけるのかという問い)
     [もし例えば分析対象を〇〇という人物の書簡に絞った場合]なぜ主史料は書簡なのか?当時の書簡とはどのようなものなのか?書簡写本が現代に伝わった過程はどのようなものか,つまり,その現存する書簡を写す際に過去の人々はどの観点で選んだのか。その観点(過去の人々が写した意図)に,自分が明らかにしたいことが引きずられてないか。他にある△△という史料もそれを理解するには必要だが,そのあたりの状況についてどのような展望を有しているのか。
     [先行けんきう・後のけんきうとの関係]これから進めていくけんきうが、先行する〇〇研究とどういう関係にあるのか、またこのけんきうによってどのような新たな上積みがなされる見通しなのか。

  8. 一人暮らしをする際,どうしても掃除はおろそかになる。そこで,浴室にカビを生やさないために,ライオンの「ルックプラス おふろの防カビくん煙剤」をオススメしたい。


  9. ボールペンを最近よく使うようになった。これが書きやすかった。